わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「あいつらがこの場所を教えてくれた。君がいつも持ち歩いている、蛇をおびき寄せる薬。どうやらあれが、道にこぼれていたようだな」
 そこでクラリスにはピンときた。先ほどファンケに向かって投げつけた空瓶だが、あれにはやはり蛇をおびき寄せる薬が入っていたのだ。それが何かの拍子で栓がゆるみ、少しずつこぼれていったのだろう。きっと荷台のような馬車も作りが荒く、板の合わせ目から薬も地面に落ちていったにちがいない。
 ましてあの二匹はクラリスが大事に飼っている毒蛇である。クラリスがかわいがっていたこともあって、ウォルター領から王都にまで連れてきた。それもあって、その辺の毒蛇より人間の意図を感じ取れるようになっているのだ。もしかして、言葉が理解できているのでは? と思えてしまうほどに。
「姉様。ご無事でしたか?」
 クラリスを見下ろすのは、薬師の紺色のローブを羽織っているものの、間違いなく弟のデリックである。
「デリック? あなたまでどうしたの?」
「どうしたもこうしたも。姉様がさらわれたと聞きましたので、いろんな薬を持って助けにきました。ですが、不要だったようですね」
 デリックはチラリとユージーンを一瞥した。この二人はなかなか寄り添うことのできない関係だったはず。
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