わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「……義兄(にい)様。姉様を頼んでもよろしいですか? 僕はこの男を騎士団の前に引きずり出さなければなりません。それに、姉様に使った薬の特定などもしなければなりませんので」
「デリック。わたくし、薬は使われたけれども、いつものようになんの効果もないわよ?」
「それでもそういった怪しい薬を野放しにはできません。成分だけでなく、出所を調べるのは薬師の仕事ですから」
 いつまでも幼い弟だと思っていたのに、デリックはてきぱきとやってきた騎士たちに指示を出している。
「あ、そうそう姉様。義兄様は、姉様を助けるために自ら毒を口に含んだのですよ。だから、二人はさっさと戻ったほうがよいかと思います。特に義兄様、そろそろ毒の効果が出てくるかも知れません。姉様が義兄様にどのような毒を持たせたのかわからないから、解毒薬も用意できていないのですが……」
「旦那様? あの毒をお飲みになられたのですか?」
 クラリスは首を倒してユージーンを見上げた。
 彼もクラリスと同じように、毒を肌身離さずもっている。それは、人を陥れるためでなくクラリスを助けるために。
「いや、飲んでいない。君に飲ませるために口移ししただけだ。つまり、口に含んだ」
「姉様。僕、義兄様を見直しました。自分の命を省みず、姉様を助けるその心意気」
 だからデリックは、あれほど敵対心を剥き出しにしていたユージーンを「義兄様」と呼び始めたのだろう。
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