わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 いや、そもそも毒を盛られるといった事例が、街中でそうそう起こるものでもない。だから万が一のときの薬は持ち歩いても、解毒薬は持ち歩かない。
「あぁ……俺は大丈夫だ……少し、身体が熱くて痛いだけ……」
 熱をやり過ごすかのように、ユージーンは身体を背もたれに預け「ふぅふぅ」と苦しそうに息をしている。
 馬車が止まると外から扉が開き、ネイサンが顔を出してきた。
「奥様、ご無事でしたか?」
「それよりも旦那様が……わたくしを助けるために、自ら毒を……」
 たったそれだけの言葉でネイサンも状況を察したようだ。
「ユージーン様!」
 ネイサンがユージーンの身体を支えるようにしながら馬車からおろし、部屋へと連れていく。クラリスはすぐに解毒薬を取りに、地下にある調薬室へと向かった。
 ここは昔、クラリスと母親が薬の開発や分析のために使用していた部屋だ。もちろん王城にも専用の部屋はあるものの、いつでも好きなときに毒を分析し飲めるようにと、父親が準備してくれた。
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