わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 たくさん並んだ瓶のラベルを確認し、クラリスはワイン色の瓶を手にした。
「ネイサン。旦那様は?」
 部屋の入り口にいたネイサンに声をかけた。
「とりあえず、身体を休ませましたが……」
 彼の言葉も歯切れが悪い。
「わかりました。あとはわたくしにお任せください。毒は、わたくしの専門ですから。ですが、治療の間、この部屋に誰も近づけてはなりません」
「承知しました……奥様、なにとぞユージーン様をお願いいたします」
 彼の言葉に深く頷いて、クラリスは部屋に入る。そのとき、鍵を閉めるのを忘れない。
「旦那様……?」
 いつも二人で眠っている大きな寝台。そこではユージーンが一人で横たわり、苦しそうにうめき声をあげている。
「旦那様、解毒薬をお持ちしました」
「クラリス……」
 額にびっちりと汗をかいたユージーンが、顔だけを動かしクラリスを見つめる。
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