わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ベネノ侯爵は、この結婚が離婚前提の結婚であることを知らないのだろう。娘が結婚する喜びがひしひしと伝わってくる手紙であった。
 クラリスが王都を発つと連絡を受けた翌日。魔獣の群れが北西の村のほうに現れたと連絡が入った。すぐさま魔獣討伐団を招集し、北西に向かう準備をする。
 だが、クラリスもやってくる。
 クラリスと会ったら、すぐさま結婚誓約書にサインをし、彼女と共にやってきた騎士に手渡すようにと、国王からの手紙には書いてあった。よっぽどこの結婚を急がせたいようだ。
「ネイサン。すまない。クラリス嬢が来たら、この誓約書にサインをもらってくれ」
「承知しました。ですが、もし、もしもですよ。クラリス嬢がやっぱりユージーン様との結婚は嫌だって騒いで、この紙をビリビリって破いたらどうします?」
「予備も用意してある。俺の机の一番上の引き出しにある。クラリス嬢が破ったらそこから予備を出してくれ。サインをもらえたら、予備の用紙は処分してくれ」
 クラリスがどのような女性か。会えるのを楽しみにしていた。
 しかし魔獣が現れてしまえば、それを倒して人々を守るのがユージーンに課せられた責務である。事前に届いた情報によれば、今回は長期戦になりそうだ。いつ、ここへ戻ってこれるのかわからない。もしかしたら――
 そんな最悪な事態を考えつつ、ユージーンは魔獣討伐団を率いて北西の村に向けて旅立った。
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