わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 それを説き伏せたのもユージーンだ。
 今のところ、この子に毒の定期接種は必要なさそうだ。ミルクもよく飲み、よく寝る。
「クラリス。またここにいたのか」
 彼女の姿が見えないときは、温室か作業用の小屋をのぞけばよい。今日も何やら薬を作っていた。
 このような辺境の地では、アルバートやハリエッタを毒から守れないと嘆いていたクラリスだが、彼らが毒に侵されたとしても解毒薬を準備しておけばいい。ただでさえ薬師は貴重な存在であり、毒を扱える毒師となればそれ以上。
 だからウォルター領で解毒薬を作り、それを王城にまで運べばいいと考えたようだ。すぐさまデリックに相談したところ、解毒薬はいくらあっても困らないとのことだった。
 もちろん彼女の作る解毒薬は、ウォルター領でも重宝されているし、魔獣討伐にいく兵たちにとっても必要なもの。
「今日は何を作っているんだ? そうやってあまり根をつめるでない」
「デリックから頼まれたのです。最近、アルバート殿下に媚薬を盛る方が多いようで。まだ、あのお二人にはお子様がいらっしゃいませんから。結婚されたばかりですし」
 アルバートとハリエッタは、一年の婚約期間を経て、半年前に結婚した。
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