わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
閑話:側近 → 団長
 ネイサンがユージーンの側近と呼ばれる立場につくようになったのは、ユージーンが爵位を継いだときだろう。彼は十六歳で爵位を継いだ。当時、ユージーンの父親が魔獣討伐団の団長を務めており、魔獣討伐先で魔獣に襲われて命を失ったのが理由である。
 魔獣討伐団は、そうやって命を危険に晒しながら魔獣を討伐する。ネイサンは、討伐団の者に尋ねたことがある。
 ――どうして討伐団に入ろうとしたのか?
 すると彼らは皆、口をそろえて同じようなことを言うのだ。
 ――守りたい人がいる。
 それは恋人であったり、子どもであったり、親であったり。その大事な人たちの生活を守りたいから、魔獣討伐団に入ったのだと答える。ごく希に「お金のため」と答える者もいるが、それが「大事なものを守るため」と答えるのが恥ずかしい彼らの照れ隠しであるのも知っている。
 だから、魔獣討伐団への入団希望する者たちの動機の大半は「大事な人を守るため」「お金のため」であるものの、本質は「大事なものを守る」に行き着くのだろう。
 ユージーンが守りたいのは、父親から受け継いだこの場所であるのを、ネイサンはわかっていた。だからユージーンを助けたかった。
 剣術の腕前は伸びなかったネイサンは、ユージーンと一緒に魔獣討伐へと向かえば、間違いなく足を引っ張る。となれば、彼が留守のときにこの場所を守ろうと、心に決めた。
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