わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンの父親がネイサンの父親を守ったように、ネイサンはユージーンの手助けをしたかった。それが恩義というものなのだろう。
 そんな主に降って湧いた縁談の話。本来であれば喜ぶべきことなのだが、いかんせん、相手に問題がある。
 クラリス・ベネノ。ベネノ侯爵令嬢。年は確かユージーンより五つ年下の二十一歳。その年まで結婚しない貴族の令嬢は、この国では少数である。たいてい、二十歳までに結婚か婚約をするからだ。
 出会いがなければ出会いを求め、出会いの場を作る。そういった催しも各所で開かれ、彼女たちは「行き遅れ」と揶揄されないように、生涯の伴侶を探す。となれば男性も素敵な女性と出会いたいと想う気持ちは同じで、そうやって意気投合した男女のカップルができあがっていく。
 さらに周囲からの圧力もかかるから、たいていの女性は二十歳までに結婚、もしくは婚約をしていた。
 そんな背景もあり、今だ独身のクラリスは社交界の毒女と呼ばれているのだ。クラリスとだけは結婚したくないと口にする男性も多いほど。
 毒女とはただ単に独身女性のことを指すだけでなく、他にもプライドが高く、相手に要求する理想が高いとも言われている。だから結婚ができないのだと。
 そういった噂をちらほらと耳にしていたネイサンであるが、噂が事実であるとは限らないため鵜呑みにはしないようにも心がけていた。何事も真偽を見極める必要がある。
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