わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 しかし噂が事実であったと確信したのは、王太子アルバートの婚約披露パーティーの場だろう。
 アルバートとつかず離れずの場所に、彼女はいた。地味な色合いのドレスでありながらも、なんとなく目を奪われる女性。それがクラリスであった。
 アルバートが動けば、彼女も一緒に動く。アルバートが食べ物を口にしようとすると、幾言か彼に告げて、クラリスがそれを奪う。料理など、他にもたくさんあるというのに、そうやってアルバートが食べる物を横から奪っていく。
 アルバートにぴったりとくっついていたクラリスだが、突然、スタスタと何かに向かって足をすすめた。
『……きゃっ』
 いきなりアルバートの婚約者として紹介されたハリエッタに体当たりし、彼女が手にしていたグラスが落ちた。もちろん、一口も飲んでいないグラスであったため、中のお酒はこぼれ、それがハリエッタのドレスを大きく汚す。
 その出来事に大して悪びれもせず、退席するハリエッタの様子を見送ってから、近くにいた給仕からグラスを奪い、それを一気に飲み干した。
『このような下品な飲み物を準備したのは、どなたかしら? わたくしの口には合わないわ』
 よりによって王太子の婚約披露パーティーである。安っぽい酒など用意しているわけがないのに、彼女はそう言い捨ててからその場を去った。
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