わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 一部始終を見ていたネイサンはあっけにとられた。
(噂以上の女性だった……)
 主役の二人が去り、クラリスもいなくなった会場は騒然としたものだ。
 たいていが、ハリエッタがかわいそうだという話で、あとはクラリスがアルバートを奪われ嫉妬に狂った末の愚行だとかなんとか。
 今の出来事を酒の肴にして、大半の人間がパーティーの余韻に浸っている。
 ユージーンの代わりにアルバートへ祝いの言葉を伝えたネイサンは、そそくさと会場を後にした。ただただすごかったとしか言いようがない。だけど、もう二度とかかわることはないだろうと、そのときはそう思っていた。
 それなのに、国王はユージーンにクラリスとの結婚をすすめてきた。いや、命令である。
 社交界の毒女。男性からも、結婚相手として望まれていない女性。そんな女性がユージーンの伴侶となるのだ。
 断れるものならば断りたいと思っていたのは、ネイサンのほうかもしれない。
 だけど、ユージーンがクラリスと手紙のやりとりをしたためか、彼女の印象は少しだけ変わった。手紙から伝わってくるのは、相手を思いやる気持ち。
 それでも、婚約披露パーティーの強烈な印象が、頭のどこかに巣くっている。
 もしかしたら、手紙を書いているのは別の人間かもしれない。そうやって疑って、真実を見極める。
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