わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
第二章:毒女 x 毒女 x 毒女
 ゴトゴトと豪奢な馬車に揺られているクラリスは、あくびをしそうになって慌てて口元を手でおさえる。
 馬車の周囲は、護衛のための騎士が並走しているし、後ろからは荷物を積んだ馬車もついてくる。むしろ並走している騎士は護衛なのか見張りなのか、微妙なところだろう。
「はぁ……」
 おもわずため息がこぼれた。クラリスが向かう場所は、東の国境にあるウォルター辺境伯領。王都からは馬車で五日かかる距離だと聞いている。まだまだ先は長い。
 クラリスは王都生まれの王都育ちである。クラリスが生まれたときには、すでに父親は王国騎士団の近衛騎士として王城で働き、母親も薬師として王城に勤めていた。ベネノ侯爵領は王都から馬車で半日もかからない場所にあるため、父親は王都と領地を行ったり来たりしていたようだ。
 だけどクラリスは、母親と四歳年下の弟デリックと、王都にある別邸で暮らしていた。それは、クラリスの体質も理由の一つである。
 十歳になったとき、クラリスも王城へと通うようになる。そこで出会ったのがアルバートであった。初めて出会ったときから、アルバートはクラリスが仕えるべき主君であり、生涯をかけて彼の側にいるものだと思っていた。
 それなのに突然の結婚命令。アルバートからの命令ではなく、国王からの命令。絶対に断れない。
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