わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 アルバートは、すぐさまハリエッタをエスコートして退席する。残されたクラリスは、近くにいた給仕からグラスを受け取り、それを一気に飲み干してから周囲を見回した。
『このような下品な飲み物を準備したのは、どなたかしら? わたくしの口には合わないわ』
 安っぽい酒だとでも言うかのように威圧する。こそこそとクラリスを揶揄する声が聞こえてきた。もう一度会場内を大きく見回したクラリスは、カツンカツンとヒール音を響かせ、その場から立ち去ったのだ。
 しかし、今振り返ってみても、確かにあれは失敗だった。誰が見てもどこからどう見ても、悪いのはクラリスである。
「……それに、クラリス」
 アルバートは、まだまだクラリスに咎があるような言い方をする。
「君は私の側にいすぎなんだよ。私の隣にはもう、ハリエッタという女性がいる。立場をわきまえてほしい」
 クラリスはぎゅっと唇を噛みしめる。
 アルバートはハリエッタと婚約した。つまり、近い将来、二人は夫婦となる。
 だけど、ハリエッタという女性が現れるまで、アルバートの一番近くにいた異性はクラリスであった。いや、これからも二番目として側にいるつもりだった。
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