わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「クラリス様、お疲れですか?」
 侍女のメイが、心配そうに顔をのぞき込んできた。メイはクラリスがベネノ侯爵家から連れてきた侍女である。クラリスは少しだけ特別な体質であるため、その体質を理解している者が近くに必要ではないかと、両親が気にかけてくれたのだ。
 クラリスとしても、見知らぬ土地に行くのに、知っている者が同行してくれるのは心強い。ただ、メイの気持ちも重要である。それを確認したところ、彼女は「喜んで」と答えてくれた。
 だから今、こうやって近くにいてくれるわけだが、つくづくメイがいてくれてよかったと心から思う。
「いいえ、大丈夫よ。ちょっとね、やはりいろいろと考えてしまって……」
「そうですよね。あれほどアルバート殿下に尽くしたというのに、まるでぼろ雑巾のようにポイッと捨てられて……お嬢様が本当に不憫で……」
 メイは、これからクラリスがウォルター領で暮らすことを案じているようだ。
「だけど、ウォルター伯であれば、わたくしよりももっと素敵な女性がいらっしゃると思うのよね」
 まるでクラリスと結婚させられるユージーンがかわいそう、とでも言うかの口ぶりである。
「でもわたくし、ウォルター伯は天才だと思ったのよ」
 するとメイは目をくりっと広げて、クラリスの次の言葉を待っている。
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