わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 クラリスにとっても望まぬ結婚であったのに、こうやって前向きに考えられるようになったのも、ユージーンの提案のおかげだろう。そして、文句を言わずについてきてくれたメイがいるからだ。
 途中、何度も休憩を挟みながら、ウォルター領に着いたのは、王都を発ってから五日目の昼過ぎであった。また日の高いうちにフラミル城に着いた。
 長旅のせいか、馬車から降りた途端、地面がぐらぐらと揺れる感覚があったが、すぐに踏ん張った。
「素敵なところね」
 領地に入ったときから真っ直ぐに空へと伸びる白い尖塔が見えた。きっとあそこからこの町を一望できるはず。
 周囲を護衛兵によって囲まれたクラリスは、メイと並んでエントランスへと足を踏み入れる。
「お待ちしておりました、クラリス様」
 そう言ってクラリスを迎え入れてくれたのは、金髪で身体つきの細い男である。彼がユージーンではないということだけは、クラリスも理解している。
 ユージーンは黒髪の男。それはアルバートからもきちんと彼の話を聞いていたからだ。アルバートはよく「あの黒髪を全部引きちぎってやろうかと思っていたよ」と、過去の思い出話をしていた。
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