わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 とんでもございません、とでも言うかのようにアニーは微笑み、カップを並べた。
「わたくし、生まれてから一度も王都から出たことがなかったのですが。ここはとても穏やかで素敵なところですね」
「ありがとうございます。奥様からそう言っていただけると、嬉しいですね」
 クラリスとしては『奥様』と呼ばれるのが、まだどこかくすぐったい。
「アニーにお願いしていいのかどうかわからないのだけれど。後で温室を案内していただきたいのです。早速、植えたいものがあって……」
「奥様は花がお好きだとうかがっております。温室については、ネイサンが案内すると思いますので、伝えておきます」
「ありがとう。楽しみにしておりますね」
「まずはゆっくりとおくつろぎください。何かありましたら、そちらの呼び鈴でお呼びください」
 アニーが部屋から出ていったのを見届けてから、クラリスは首元からぶら下げていた小瓶を取り出した。服の内側にしまい込んでいたから、誰も気がついていないだろう。その小瓶の中身をカップの中に二、三滴垂らす。
「……ふぅ。やっと落ち着いたわ」
 お茶を二口飲んだところで、安堵の息をつく。
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