わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「クラリス様。持ってきているお薬は、足りておりますか?」
 メイはクラリスが飲む毒を『薬』と言う。さすがに、他の人がいる前で堂々と『毒を飲む』とは言えないし、クラリスが定期的に毒を飲まなければならない体質であるのを知っているのも、クラリスに近しい人間のみ。
 ベネノ侯爵邸で働いていた使用人だって、全員は知らないはずだ。それだけクラリスの体質は、公にできないもの。
 お茶を飲んで一息ついたところで、クラリスは温室に向かいたくてうずうずし始めた。
「クラリス様。もう少し休まれては?」
 メイは心配そうに声をかけてきたが、クラリスとしては十分に休んだつもりである。それに、定期的に摂取しなければならない毒も飲んだので、ここに着いたばかりのときよりも、身体はだいぶ楽になった。
 呼び鈴でアニーを呼びつけ、温室に行きたいと伝える。メイは荷物の整理をするから、いろいろと教えてやってくれないかと声をかければ、アニーは快く引き受けてくれた。
 温室を案内するためにネイサンがやってきた。側近という立場にいる彼は、公私ともにユージーンを支える存在のようだ。
「ネイサン様は……」
 温室へと案内されている途中、外に出たところでクラリスはネイサンに声をかけた。
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