わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ネイサンの質問に対する答えは難しい。あのときのクラリスは、アルバートたちを陥れようとする者たちを威嚇するときの姿であるから、間違いなく本来の姿の一つ。威圧するような態度をとり、アルバートやハリエッタに怪しげな人を近づけないようにしていた。
「それもまた難しいところではございますが。少なくともここにいる間は、あのような失態をお見せしないように努力いたします」
 嘘とはならない言葉を選んで答えた。
「奥様はいろいろと謎があるようですね」
「二年間のお付き合いですから、こちらも手の内をすべてさらけ出すわけにはいかないのです。ですが、こちらでは旦那様にご迷惑をおかけしないように振る舞っていくつもりです」
 歩きながらネイサンは、何かを考え込むかのように、顎に手を当てた。
「ユージーン様が変な提案をしてしまい、申し訳ありません。離婚前提の結婚って、考えてみればおかしな話ですよね?」
「いいえ、そのようなことはありません。わたくしは誰とも結婚するつもりがありませんでした。ですが、陛下からあのように命令されてしまっては断れません。旦那様まで巻き込んでしまって、心苦しく思っております。だから、離婚前提で結婚すればいいと提案されたとき、この方、天才なのではないかと思ってしまったのです。旦那様のおかげで、このように前向きにこの地に来ることができました。旦那様には感謝しても感謝しきれません」
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