わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 あのときハリエッタは、クラリスにぴったりの男性を知っていると言っていた。どのような男性であるか不安な面もあったが、今ではハリエッタにも感謝している。いろんな意味でぴったりの相手だった。
「わたくしのわがままで温室まで用意していただいて。本当に感謝しかありません」
「その温室なのですが……」
 なぜかネイサンの歯切れが悪い。
「ユージーン様が手紙にも書かれていたかと思うのですが。まあ、ずっと使っていなかった温室でして。少しは整備したのですが、場所も場所なだけに……」
 そうやって話をしているうちに、温室に着いた。
 外から見ただけではいたって普通の変哲のない温室である。ただ、裏にはうっそうと繁った森がある。
「まあ、素敵なところですね」
 クラリスは両手をパチンと合わせ、うっとりとした様子で温室と森を見た。
「え、えと。奥様?」
「温室の場所が理想です。こちらは日当たりが良いのに、裏は木々が生い茂ってじめじめとしている。二つの世界を同時に味わえるような場所ですね」
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