わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「キャァアア!」
 どこからか、女性の悲鳴が聞こえてきた。
 クラリスはネイサンと顔を合わせ、頷き合う。二人は、声がしたほうへと足を向けた。
 スカートの裾をバサバサと翻しながら走るのははしたないとされていても、クラリスにとって今はそれどころではない。
 悲鳴があがったというのであれば、それは予想外の何かが起こったということ。それが好ましいほうの予想外であればいいのだが、今の悲鳴を聞く限り、悪いほうの予想外だろう。
「恐らく、地下だと思います」
 城の地下は倉庫になっており、外からも中からも出入りできるつくりになっている。外から地下へと続く扉は開け放たれたまま。
『キャ……あっち行って』
 ネイサンの予想とおり、悲鳴の主は地下にいるようだ。ネイサンは迷いもせずに階段を降りるが、もちろんクラリスも後に続く。
 地下室は地上に半分だけ出ている採光用の窓から明かりを取り込んでいるため、まだ日の高い昼間はランプをつけなくても十分に明るい。
 いろいろとものが並んでいる棚の奥。壁を背にして一人の女性が座り込んでいた。隣では同じように座り込んだ男性が苦しそうに手首を押さえている。
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