わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「……蛇か? 噛まれたのか?」
 座り込んでいる二人の前で蛇がとぐろを巻いていた。これは蛇が警戒している証拠だ。男女と蛇の距離は二メートルほど離れているかいないか。
 ネイサンの呟きが聞こえたのか、女性はこくこくと頷いた。
「ネイサン。蛇はわたくしに任せてください。あの蛇は毒をもっておりますので、すぐに治療を。解毒薬はメイが持っておりますから」
「え、いや。しかし。奥様、危険ですからお下がりください。すぐに兵を呼んできます。彼らは魔獣討伐を専門としているため、こういった生物を駆除するのも彼らの役なのです」
「わたくしは、表向きは薬師です。蛇の動きを鈍らせるような薬も持っておりますから」
 クラリスは常に、危険生物を駆除したり手懐けたりする薬を持ち歩いている。危険生物は魔獣とは異なり、人に向かって水や火を吐かないものの、体内に毒をため込んでいる。だからその危険生物に人が噛まれると、毒によって侵される。さらに、場合によっては人の体内に卵を産み付け、孵化した幼虫が人の内臓を食い散らかすような人食い生物と呼ばれる生き物も存在するため、魔獣とは違った意味で人々の生活を脅かしている。
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