わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 メイは手にしていた籠をクラリスへと手渡した。そこには茶色やら黒色やら透明やら何やらの小瓶が並んでいて、他にも綿紗や包帯もあった。
「もしかしたら熱が出るかもしれなませんが、ゆっくりと休んでいればすぐに下がりますから」
 軟膏を手の甲の傷口に塗りつけ綿紗で覆い、包帯をぐるぐると巻く。
「こちらが塗り薬。寝る前と起きたときに塗ってください。こちらが飲み薬。熱や痛みが出たときに飲んでください」
 クラリスの説明を黙って聞いていた男は、薬を渡されてもポカンとしている。
「奥様に礼を」
 ネイサンの言葉で男も我に返ったようで、慌てて口を開く。
「あ、あ、あ、ありがとうございます。奥様自ら、このように手当をしてくださって……」
 感激のあまりか、彼は涙ぐんでいた。
「あなた、お仕事は何をされているのかしら? 今日はもう、念のためお休みになってください」
「馬丁です。馬丁のエイベルと申します」
「そう、エイベル。あなたはもう休みなさい。いい? これは命令ですよ」
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