わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 二人は口元を扇で隠しながらも、見せつけるかのようにしてささやき合っている。残念ながらその声は、クラリスの耳には届かない。
「なるほど、それはいい。さすが私のハリエッタだ」
「アル様にお褒めいただき、光栄ですわ」
 クラリスは悔しくて、奥歯を噛みしめた。目頭が熱い。
 十歳になったときからアルバートの側にいてずっと彼を支えてきたというのに、ここにきて放り出されるとは思ってもいなかった。
「殿下、御慈悲を……」
 先日のハリエッタのドレスに飲み物をかけてしまった行為は、やりすぎたかもしれない。だけどあのときは、それしか方法が思い浮かばなかったのだ。
 今となって、あれは浅はかな行為であったと自覚する。もっとやりようがあっただろう。今では後悔しかない。
「だから慈悲を与えるのだよ。君は、ウォルター辺境伯のユージーンと結婚したまえ。この件は父にも伝える。もちろん、君の父親にもね」
 アルバートの父親となれば国王である。そうなれば、国王からの命令となる可能性がある。
「殿下。殿下はわたくしがいなくてもいいと、そうおっしゃるのですか?」
「そうではない。君には感謝をしているよ。だからこそ、君にも幸せになってもらいたいと、私もハリエッタもそう思っている」
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