わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ネイサンの目つきは怖いが、ここでその視線から逃げたら負けだ。
「わかりました。奥様は薬師としてその毒蛇を利用したいと、そういうことですね?」
「そ、そうです。わかっていただけて嬉しいです」
 クラリスは、ほっと胸をなでおろした。嘘はついていない。
「ですが、奥様。危険なことはなさらないようにお願いします。今だって、奥様が素手で毒蛇を捕まえて、僕は肝が冷えましたよ。奥様に何かあったら、ユージーン様に会わせる顔がありませんから」
 どうやらネイサンは、純粋にクラリスを心配していただけのようだ。
「で、では。温室に戻りますね」
 温室へと戻るクラリスの足取りはぎこちない。
「奥様!」
 ネイサンが声を張り上げた。
「くれぐれも、くれぐれも。森の奥には入らないよう、お願いいたします」
「どうして、ですか?」
 ネイサンから逃げるようにして温室へ向かおうとしていたクラリスであったが、裏の森の魅力に負けた。あそこはクラリスにとっては宝物が眠るような場所である。
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