わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 それなのにネイサンは、そこへ行っては駄目だと言う。
「危険だからです。奥様はまだウォルター領をよく知らないでしょう?」
 その言葉に否定はしない。ウォルター領といえば、東の国境にある領地。魔獣や他国の侵略からホラン国を守っている重要な場所。その程度の知識しかない。
「ウォルター領の周辺には魔獣がよく出ます。そのせいか、植物や生き物も強くなりました」
「強くなる?」
 魔獣に対して耐性をつけたということだろうか。だが、どうやって?
「魔獣から身を守るようにと植物や生き物たちが、毒をため込むようになったのです。それを食べた魔獣が苦しむように、そうなったのではないかと言われております。ですが、その毒を取り込んだら苦しむのは人間も同じです。ですから裏の森には、毒性を持つ生物や植物が多く存在しているのです」
 ネイサンが淡々と説明するのは、クラリスに恐怖心を与えないようにという配慮のためだろう。
 それに、温室を他の場所に準備すると言っていたのもこれが原因にちがいない。
「ネイサン。教えてくれてありがとうございます」
 クラリスが理解を示したことに、ネイサンの強張った表情がやっとゆるんだ。
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