わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「ですが、わたくしは先ほども申し上げましたように、薬師です。薬師であれば、毒性の植物や生物は魅力的なものです。だから、裏の森に入らせてください」
「奥様。今の僕の話を聞いていました?」
「はい。もちろんです。裏の森には毒が豊富だという話ですよね?」
「ですから、危険なのです」
「危険なのは、その毒を知らないからです。何度も言いますが、わたくしは表向きは薬師です。薬師ですから、毒の扱い方はよく理解しております。お願いです、裏の森へ行かせてください」
 クラリスが蛇を抱えたままネイサンに一歩詰め寄ると、ネイサンは一歩退く。
「お願いです。森の中に入らせてください」
 クラリスが一歩近づき、ネイサンは一歩下がる。二人の距離は縮まるようで縮まらない。
 だが、先に根をあげたのはネイサンだった。
「わ、わかりました。僕では判断できませんので、ユージーン様に確認します。ただ、裏の森には入らないよう、ウォルター領の者にはきつく言い聞かせてあるのです。あそこが危ないことを、皆、知っておりますから」
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