わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
閑話:側近 → 毒女
ユージーンが不在であるのに、彼の花嫁はやってくるという。その花嫁を迎えるために、ネイサンは朝から各所に指示を出しててんやわんやだった。
ただでさえウォルター領は、住み慣れぬ者にとっては非常に住みにくい場所。他からやってきた者は、この領地の特有さに順応できずに去って行くことも多い。
だからってここまで来てクラリスに逃げられても困る。
ユージーンがいないからって「やっぱり結婚、やめます」なんて言われて、書類にサインをもらえなかったらどうなるのか。
破かれてもいいようにと、ユージーンが百枚準備したのに、それも徒労に終わるだけ。噂通りの毒女であれば、それも十分にあり得るだろう。この地が気に入らなければ、国王の命令であっても背くにちがいない。
とにかくネイサンは朝から気が気でなかった。
昼過ぎにクラリスはやって来た。仰々しく護衛兵に囲まれ、専属の侍女を連れて姿を現した。
きりっとした顔立ちをしていたが、その声は凛としながらもやわらかなものだった。毒々しさなど、微塵も感じられない。
(ユージーン様の手紙の相手は、彼女に間違いないだろう)
言葉を交わしてそう確信した。
だからこそ逃してはならないと思い、さっさと結婚誓約書にサインをもらいたかった。むしろクラリスの護衛と称してついてきた兵たちは、それを持って帰らねばならないらしい。
ただでさえウォルター領は、住み慣れぬ者にとっては非常に住みにくい場所。他からやってきた者は、この領地の特有さに順応できずに去って行くことも多い。
だからってここまで来てクラリスに逃げられても困る。
ユージーンがいないからって「やっぱり結婚、やめます」なんて言われて、書類にサインをもらえなかったらどうなるのか。
破かれてもいいようにと、ユージーンが百枚準備したのに、それも徒労に終わるだけ。噂通りの毒女であれば、それも十分にあり得るだろう。この地が気に入らなければ、国王の命令であっても背くにちがいない。
とにかくネイサンは朝から気が気でなかった。
昼過ぎにクラリスはやって来た。仰々しく護衛兵に囲まれ、専属の侍女を連れて姿を現した。
きりっとした顔立ちをしていたが、その声は凛としながらもやわらかなものだった。毒々しさなど、微塵も感じられない。
(ユージーン様の手紙の相手は、彼女に間違いないだろう)
言葉を交わしてそう確信した。
だからこそ逃してはならないと思い、さっさと結婚誓約書にサインをもらいたかった。むしろクラリスの護衛と称してついてきた兵たちは、それを持って帰らねばならないらしい。