わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンからの情報によると、二人の結婚の証人は国王になるのだとか。本当に心から恐ろしい結婚である。
「クラリス様にお会いできないことを残念がっておりましたが、これだけは準備しておりましたので」
 ユージーンがクラリスに結婚誓約書を手渡すと、彼女はそれを受け取ってゆっくりと口を開く。
「ですが、ユージーン様は不在なのでしょう? わたくしがこれをビリビリッと破ってしまえば、この結婚は成り立たないのではなくて?」
 ここまではユージーンも予想していたのだろう。だから他に九十九枚も準備していたのだ。それをクラリスに伝えると、彼女は楽しそうに、せっかくだから一枚くらい破ったほうがいいだろうかと言う。
 それはそれで面白いのだが、身体を震わせている護衛兵を目にしたら、彼らがかわいそうに思えた。
 クラリスは、間違いなくネイサンとの会話を楽しんでいる。毒女というよりは、賢女だろう。言葉の駆け引きが面白い。いつの間にかネイサンもクラリスとの会話を楽しんでいた。
 クラリスがサインした結婚誓約書を、護衛兵に手渡す。彼らはネイサンに感謝の言葉をかけ、また王都へと戻っていった。
 数日もすれば、結婚誓約書の写しが送られてくるだろう。もちろんそれには、証人欄に国王の署名が入っているのだ。
 長旅で疲れただろうクラリスを部屋へと案内し、ゆっくりと休んでもらうことにした。
 それなのに、お茶を飲み小一時間ほど休憩したクラリスは、日の高いうちに温室へ行きたいらしい。
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