わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ネイサンはそう思っていたのだが、クラリスは蛇を閉じ込めた瓶の蓋を、きつくしめた。
 あれでは蛇は死んでしまうというのに。いったい、彼女は蛇をどうするつもりなのか。
 好奇心と猜疑心が混じり合って、何をどのように聞いたらいいかもわからなかった。それでもなんとかクラリスから引き出した答えは、毒蛇を薬に使うとのこと。
 クラリスが薬師として王城に勤めていたとは、ネイサンも知らなかった。だけど、やはりクラリスは普通の薬師とは何かが違う。そんな得体の知れない気配を感じ取った。
 ユージーンが不在のフラミル城の秩序はネイサンが守らねばならない。クラリスがそれを脅かす存在であるかどうかを見極める必要がある。だというのに、使用人たちは、初日の毒蛇の一件からクラリスに心酔し始めた。
 ――奥様は、分け隔てなく治療を施してくれる。
 ――奥様は、毒蛇にも動じない。
 それらは事実であるため、否定する要素はないし、ネイサンも認めている。
 ――さすが、旦那様が見初めただけのことはある。
 そんな噂がまことしやかに流れ始めたのだ。
 この結婚が、国王の命令によるものだと知っているのは、ほんの一部の人間のみ。それだって口の硬い者たちだから、ほいほいと言いふらすわけでもない。
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