わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 だからこそ、そのような噂が流れているのだ。
 ――旦那様が、王都へ行ったときに一目惚れしたそうだ。
 噂とは恐ろしいものである。あることないこと、それがさも事実であるかのように広まっていく。
 そもそもユージーンはクラリスと会ったことがない。会ったことがないのに、見初めるも、一目惚れも起こるわけがない。
 しかしクラリスはそれを否定するつもりはないのだろう。使用人たちから声をかけられるたびに、当たり障りのない言葉を返し、のらりくらりと交わしていた。
 ただ、彼女はけして嘘はつかない。
 なおさら、使用人たちはクラリスを『奥様』として慕い始める。さらに、怪我をしたときや身体に不調が起こったときは、『奥様』に相談して、薬を作ってもらっている。
 言葉は悪いが、クラリスは完全に使用人たちの懐に入り込んだ。
 ここで、仮にクラリスにとってマイナスとなる噂を流したとしても、それはもみ消されるだろう。それくらい、クラリスはフラミル城の者たちに受け入れられ、溶け込んでいた。
 ネイサンだってクラリスを疑って、嫌っているわけではない。ただ、ユージーンの相手としてふさわしいかどうかを確認したいだけなのだ。
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