わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 仮に奇跡的に出会ったとしても、不在がちな夫の代わりにあそこの女主人を務めあげようとする肝のすわった女性がいない。考えてみれば、ユージーンと結婚したいという女性はちらほらと現れたものの、ウォルター領を褒めそやす女性はいなかった。たいてい、ウォルター領の現状を見て、遠回しに断ってくるのだ。
 少ない出会いの場で、奇跡的に出会った女性は皆、ウォルター領から逃げた。
 もしかしたら、クラリスも逃げるかもしれない。むしろ、逃げられたかもしれない。
 いや、逃げられてもいい。
『結婚』という事実さえ作ってしまえばいいのだ。
 だからユージーンは、クラリスと本当に結婚したのかどうか、それを確認したかった。ネイサンからの手紙には、クラリスから結婚誓約書にサインをもらったこと、国王の証人の入った控えが届いたことなどが書かれていたが、もしかしたらそれは、ユージーンを気落ちさせないための嘘かもしれない。
 やはり実際に目で見て事実を確認しなければ、という思いがある。
 馬の背にまたがるユージーンは、討伐団の仲間たちと共に、ウォルター領を目指していた。
 クラリスとの縁談の話をもらってからはだいぶ日が経ち、また結婚をしてから二か月という期間が過ぎた。
 そういった時間が、ユージーンに考える余裕を与えてくれたのだろう。
< 73 / 234 >

この作品をシェア

pagetop