わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 今回の縁談は国王からの命令。さすがに女性側も断りはしないだろうと思いつつも、期間限定の形だけの結婚を提案したのはユージーンでもあった。
 理由は、相手の女性がよくわからないから。ネイサンが『毒女』ではないかと、心配していたのも理由の一つ。
 それから、結婚前に逃げられるのを防ぐためでもある。互いに断れない結婚であるのはわかっているが、それでもウォルター領に足を踏み入れた途端、このような場所では生活できない、と逃げ帰ってしまうかもしれない。
 それを、二年間の期間限定の結婚とすることで、先に逃げ道を作っておく。そうすれば『結婚』だけはしてくれるだろう。
 国王の命令であるのに、相手に逃げられ結婚できなかったとなれば、ユージーンにとっても不名誉な話題となる。そうなれば、今後、伴侶を望むのは難しいだろう。こういった話題は、本人が口にしなくても、どこからかじわじわと漏れていくから噂とは恐ろしいのだ。
 領地へ近づき、遠くから白い尖塔が見えたときには、討伐団の中には泣き出す者も現れた。
 やはり愛する家族に会える喜びが込み上げてきたようだ。
 ユージーンは城門の前で討伐に赴いた者たちに激励の言葉をかけた。それから早く家族のもとに帰るように促す。後日、彼らの家族を呼び、帰還パーティーをしようと声をあげた。彼らに今必要なのは、家族と共にいる時間、休息なのだ。
 そこで魔獣討伐団は解散となった。全員がその場から帰ったのを見届けたユージーンは、自身も身体を休めるために城のエントランスへと足を踏み入れた。
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