わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 二ヶ月ぶりの城は、やはり懐かしいと思う。
「ただいま帰った」
 エントランスに入った途端、視界に飛び込んできたのは見知らぬ女性だった。藍色のエプロンドレスをまとい、空色の髪は高い位置で一つに結わえている。紫紺の瞳はしっかりとユージーンを見つめていた。
「……あ。お帰りなさいませ、旦那様」
 そう声をかけてきた彼女から、なぜかユージーンは目が離せなかった。いや、目が離せない理由ははっきりとしている。
 彼女は両手に蛇を持っていた。蛇の頭をがしっと鷲づかみにしているのだが、片手に一匹ずつ、つまり、計二匹。
(な、なんだこの女性は……)
 びりっと全身に動揺が走った。魔獣と対峙したときとも緊張するが、今は、それとは違う種類の緊張がある。
「あっ」
 慌てたように彼女は手にしているものを背中に隠す。けれどもにょろっと胴体の長い蛇は、背中に隠してもプランプランと尻尾が見えていた。
 しかもあの蛇は毒を持つ蛇である。つまり、毒蛇。裏の森でよく見かけた蛇だから、ユージーンもすぐにわかった。さらに、あの毒蛇は、間違いなく死んでおり、今もプランプランと重力に従って揺れている。
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