わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「お初にお目にかかります。クラリス・ベネノ……ではなく、クラリス・ウォルターです」
 毒蛇を背に隠したままの彼女はスカートの裾をつまめないため、その場で腰を折った。
「あ、あぁ……ただいま帰った。俺がユージーン・ウォルター。おそらく、君の夫かと……」
「ユージーン様、お帰りなさいませ」
 慌てた様子でネイサンが姿を現した。
「お疲れでございますよね。お帰りになられると聞いておりましたので、湯浴みの準備も整っております。お食事もすぐにとれますが?」
 まるでネイサンのほうが、妻のようにかいがいしく世話を焼いてくる。
 それでもユージーンはクラリスの姿に釘付けであった。
 彼女を一目見た瞬間、心臓をぐわっと力強く握りしめられたような、変な衝撃が走った。その心臓は今、激しく音を立てて動いている。
 驚き、目を見開いたままのクラリスは、ユージーンを凝視していた。
「奥様も着替えましょう。ですが、先にその手にされているものを片づけてきたほうがよろしいかと思います。メイかアニーを呼びましょうか?」
「え、えぇ……お願い」
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