わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「あ、ユージーン様。上着をお預かりします。ですが、奥様の蛇は、残念ながら僕は預かることができません」
「そうね」
「いくらメイやアニーであっても、その蛇は奥様しか扱えませんので、責任をもって片づけて、着替えをしてからいらしてください」
 彼女はひどく動揺していた。それがユージーンにもひしひしと伝わってきた。
 すぐさまアニーがやってきて、クラリスを連れていく。
 それよりも蛇だ。両手に蛇を持って夫を出迎える妻がこの世にいるだろうか。まして二匹も。よりによってあれは毒蛇である。
「ユージーン様。どうされましたか?」
 上着を預かったネイサンが、不審そうにユージーンを見つめている。
「今の女性が、俺の妻か?」
 そうであってほしいという願いが、心のどこかにあった。この気持ちは、いったいなんなのか。
「はい、そうです。手紙でもお伝えしましたが、ばっちりと結婚誓約書にサインをいただき、陛下からの証人のサインが入った控えもあります。ですから正真正銘、ユージーン様の奥様でございます。まぁ、書類上の話ですが」
 やはり今の女性はユージーンの結婚相手で間違いはないようだ。
 これほど衝撃的な出会いが、今まであっただろうか。
 ――否。
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