わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「ネイサン……俺は、彼女に惚れた……」
「はぁあああ?」
 ネイサンの素っ頓狂な声が、エントランス内に響く。
 しかしユージーンは気にもとめない。とにかく、毒蛇を二匹も素手で持っていた彼女の姿が、頭から離れない。
「ネイサン。俺は先に湯浴みをする。遠征から戻ってきたばかりだからな。少々、埃っぽい」
「承知しました」
 今になって、家族をおいて魔獣討伐に赴く団員たちの気持ちがわかったかもしれない。戻ってきたときには、このような気持ちになるのだ。
 彼らも今頃は、家族と再会して、喜びに満ちあふれているのだろうか。
 自然と顔が綻んだ。
 そんなユージーンの姿を、ネイサンが細くした目で見つめてきた。
 ゆぐに湯浴みを行ったユージーンは、普段よりも念入りに、魔獣の臭いを落とすかのように身体を洗った。魔獣討伐を続けていると、その臭いに慣れてしまう。体液から変な臭いを放つ魔獣もいて、それを初めて浴びたときは最悪な気分になったものだ。もしかしたら、今も魔獣の変な臭いが身体に染みついているかもしれない。
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