わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
第一章:結婚 x 結婚
 ホラン国の東側に位置するウォルター領。ここは国境の要でもあり、石造りのフラミル城が街並みを見下ろすかのようにして建っている。フラミルとは初代城主の名であり、そのまま城の名前として定着していた。
 国境の城塞が守るのは、周辺諸国からの襲撃だけではない。魔獣と呼ばれる人を襲う獣から、人々の命と生活を守っており、その魔獣がホラン国内に入り込まないようにと見張っているのだ。
 魔獣はただの獣とは異なる。口から火や水を吐き出したり、鋭い爪で人を襲ったり、見境なく人や家畜を食べたりと、とにかく人々の生活を脅かす存在である。
 石造りの城塞は、見た目がごつごとしていて厳つい城であるため、見慣れぬ者は近づきがたい。だが、内装は他の地の城館と同じように、それなりに華やかである。それはこの城館で働く使用人たちの仕事ぶりが丁寧だからだろう。
 三階にある執務室は、毛の短いワイン色の絨毯が敷かれ、化粧漆喰の壁には飾り気がない。少しだけ開けた窓から心地よい風が入り込み、カーテンを揺らす。
 ウォルター領の領主でもありフラミル城の城主でもあるユージーンは、一通の手紙に目を通すと、黒髪の間に指を入れるようにして頭を抱えた。
「ユージーン様、どのような内容で?」
 この手紙を持ってきたのは、側近のネイサンである。王家の押印で封印されていたため、彼は慌ててこの手紙をユージーンのもとへと届けたのだ。
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