わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 食堂に現れたクラリスは、先ほどの簡素なエプロンドレス姿とは異なり、鈍色のイブニングドレスを身にまとっていた。装飾も少なく、地味な色ではあるが、シャンデリアの光が当たれば、きらきらと銀色に輝く。胸元を飾る控えめな花の刺繍は、虹色に光る。
「あ、あの……変でしょうか? こちらに来てからというもの、こういったドレスを着る機会が減りまして……久しぶりに着てみたのですが……」
 恥じらいながらも言い訳するような彼女の姿に、ユージーンは見惚れていた。
 女性は化けるとは聞いていたが、毒蛇を二匹持っていた彼女と、目の前の彼女が同一人物である事実に驚きを隠せない。そのギャップに、心が射貫かれる。また、クラリスの魅力を一つ知ってしまった。
「……いや。よく似合っている」
 ネイサンがユージーンに耳打ちする。
「ユージーン様の名前で贈ったドレスです」
 そうだったかもしれない。
 どのような女性がやってくるかまったくわからなかったから、ネイサンに「適当に」と頼んだのだ。ましてあのときは、毒女と呼ばれている女性かもしれない、という考えが頭の隅にはあった。
 しかし、そんなことすらどうでもよくなるくらい、目の前のクラリスは美しい。そして、ユージーンに激しく襲いかかってきたのは後悔だ。
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