わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 もっと彼女に似合うドレスを贈ればよかった――
 クラリスは食事の所作も申し分ない。さすがあのアルバートの腰巾着であり、ベネノ侯爵家の令嬢である。
 食事がすすむにつれ、いや、最初からユージーンは気になっていることがあった。
 彼女の前にはあり、ユージーンの前にはないもの。赤い液体の入ったショットグラス。食前酒とは異なる飲み物が気になっていた。しかも彼女は、一気にそれを飲むわけではない。食事と食事の合間に、ちびちびと飲んでいるのだ。
「すまない。一つ、尋ねてもよいだろうか」
「なんでしょう?」
「その……飲み物はなんだ?」
 ユージーンの問いかけに、その場にいたネイサンもアニーもサジェスも息を呑んだ。
 聞いてはいけないことを聞いてしまったようだ。しかし、彼らの反応を見れば、クラリスの飲み物の正体を彼らは知っているわけだ。
 自分だけ知らない事実に、ユージーンの胸はギリッと痛む。
「あぁ、こちらですね?」
 そんなユージーンの気持ちを知ってか知らずか、クラリスの声は明るい。
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