わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 そしてこのウォルター領には、それらが数多く存在する。しかも動物だけでなく植物も。
 魔獣に対抗するために、動物や植物が毒をため込んだという節もあるが、とにかくウォルター領は毒に困らないほど豊富であった。
 何も知らない者がそれらを手にしないように、ユージーンの部下たちが厳しく目を光らせている。それでも慣れぬ者は、毒の多い場所で生活したいとは思わないようだ。
 それが、ユージーンが結婚できない理由でもあった。ユージーンとの縁談のためにウォルター領を訪れた女性は、そういった生き物の存在を知って、やんわりとその機会を断る。
 しかし、クラリスならどうだろう。
 何よりも彼女は毒師であり、さらに毒蛇を素手で捕まえる女性でもある。ユージーンが不在だったこの二か月も、逃げることなくフラミル城で生活をしていたわけだ。
(やはり彼女は、理想の女性ではないのだろうか……)
 少しだけ鼓動が早くなったのは、けして飲んでいるワインのせいではない。そもそもこのくらいの酒量でユージーンは酔わない。
「すまない。俺は君が毒師であるとは知らなかった。よければ、もう少し君のことを教えていただけないだろうか」
 言葉と一緒に心臓が飛び出てくるのではと思えるほど、胸が苦しかった。
 クラリスを知りたい。そして、手放したくない。
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