わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 その気持ちがユージーンを支配している。
 いつの間にかネイサンが隣にいて、そっと耳打ちしてきた。
 どうやら毒師については、食事の場で話すような内容ではないらしい。となれば、どうすべきか。
「このあと、君の部屋へ行ってもいいだろうか?」
 ネイサンもアニーもサジェスもひゅっと喉を鳴らした。
 しかしクラリスだけは「はい」と笑みを浮かべた。
 とりあえず、食事の場にふさわしい話題として、クラリスが二か月の間、どのように過ごしていたのかを尋ねてみた。
 どうやら例の温室で、何やら植物を育てているらしい。その世話をするのが楽しいようだ。なんとなくだが、普通の草花ではないのだろうなと、ユージーンの直感が訴えた。
「あ。旦那様にはお礼を言いたかったのです」
 温室の話が出たからだろう。彼女は「素敵な温室をありがとうございます」と、にこやかに礼を口にした。
 その表情を見れば、その言葉が心からの気持ちなのだろうと、そう伝わってきた。
「しかし、あそこの温室は裏が森だから、変な生き物がやってこないか? 他の場所にも作らせる予定なのだが」
「いいえ。あそこは最高の温室です。裏が森であるのも魅力的です」
< 84 / 234 >

この作品をシェア

pagetop