わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 そこでユージーンは思い出した。クラリスが裏の森に入りたがっていると、ネイサンの手紙に書かれていたのだ。
 やりたいことを抑止してしまえば、クラリスが逃げ出すかもしれないと思ったユージーンは、護衛をつければ入ってもいいと返事を書いた記憶がある。
 ふとネイサンに視線を向けると、彼は首を横に振った。つまり、これ以上、この話題についても深掘りするなと言っている。食事の場にふさわしい話題とは、なかなか難しい。
「そうか、気に入ってもらえて何よりだ。他にも、何か不便なことがあれば、遠慮なく言ってくれ。善処しようと思う」
「ありがとうございます。そうですね、一つだけお願いがございます」
「なんだ?」
「わたくし、裏の森で毒草を摘んだり、毒虫を捕まえたりしたいのですが、同伴してくださる護衛の方は気乗りしないようでして……。わたくしが一人で森に入る許可をいただきたいのです」
 ネイサンがまた首を左右に振っている。
 許可するな。これ以上、その話題に触れるな。
 そんな意味なのだろう。
「それには即答できない。少し考えさせてほしい」
「……そうですか」
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