わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 クラリスが寂しそうにそう呟いた。
 しかし、これはチャンスではないだろうか。護衛兵が気乗りしないのであれば、ユージーンが同行すればいい。
 そんな考えがぽっと浮かび上がったが、それを周囲に悟られないようにと平静を装った。
 裏の森は、いくら魔獣や危険生物になれた者であっても、積極的に行きたいとは思わない場所である。
 彼らは仕方なくクラリスに同行しているのだ。
 それが彼女の話しぶりから感じ取れたが、だからってユージーンはその兵を咎めたいわけではない。
 そもそも裏の森に入りたいと希望するクラリスのほうがちょっと変わっており、お目付役の兵の考えが一般的だからだ。
(いつも、誰が同行していたんだ……?)
 それをネイサンに確認しておく必要がありそうだ。むしろ、その役目をユージーンが変わってやろうと、目論んでみた。
 それから、クラリスがウォルター領に来てから何をして過ごしていたかを、かいつまんで聞いた。
 温室での植物栽培、裏の森の探索、庭園の散歩、薬作り。また、サジェスから領地について教えてもらうなど、勉強にも精を出していたようだ。
(やはり……話を聞く限り、彼女は理想的な妻ではないのか?)
 手紙のやりとりでも確認してはいたが、彼女に男の影はない。使用人たちとも仲良くやっており、何よりも勉強熱心。勤勉という言葉が合うのかもしれない。
 これは何がなんでも、二年が過ぎた後も、婚姻関係を続けたい。
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