わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「どうかされました?」
 ユージーンは自分でも気づかぬうちに、クラリスを凝視していたようだ。彼女から声をかけられ、はっとする。妄想に浸りすぎてしまった。
「いや、どうもしない。ワインのおかわりを頼む」
 気持ちが高揚しているためか、喉が渇いた。
「旦那様は、お酒に強いのですね」
 クラリスが目を丸くする。驚くくらいペースが速かっただろうか。しかしこれはユージーンにとっては、普段となんらかわりないのだが。
「君は、飲まないのか?」
「わたくしには、これがありますから」
 もちろん彼女の視線の策には、蛇の毒が入ったショットグラスがあるが、よく見れば中の液体はワインと同じ色。こう見ると、お酒に見えないこともない。だからこの場では、彼女が飲んでいるのも酒と思えばいい。

 穏やかなまま、晩餐の場は終わった。
 クラリスはアニーとメイに連れられて部屋へと戻っていく。
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