わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「縁談の話だ。お前も読んでみろ」
 読み終えた手紙を、机の向こう側に立つネイサンのほうへ、つつっと滑らせる。
「僕が読んでもよろしいのですか?」
 ネイサンはぐりぐりっと目を大きくして、机の上の手紙を見下ろす。
「むしろ、お前の意見を聞きたい」
 ユージーンの言葉に「承知しました」と答えてから、ネイサンは手紙を手にした。文字を追う彼の顔は、次第に険しくなっていく。
「どう思う?」
 鉄紺の瞳を鋭くしたユージーンは、ネイサンの様子を見守った。
 そんなネイサンはしばらく考え込み、手紙を見つめたまま問いかけにも答えない。
 バン! といきなり手にしていた手紙を机の上にたたき付けた。
「これは……国王陛下からの命令じゃないですか」
 ネイサンが指で示したのは「命ずる」の一文と、国王のサイン。
「そのようだな」
 そのくらい、ユージーンだって手紙を読んだ時点で把握している。
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