わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
閑話:側近 → 辺境伯夫人
 ユージーンからの手紙が届いたのは、クラリスが来てから二十日ほど経った頃である。現地の状況を知らせる報告の他に、クラリス宛の手紙が入っていた。
 どうやら裏の森に入ってもいいと、許可を出したようだ。クラリスは宝石のように紫紺の瞳をきらきらと輝かせ、今にも小躍りしそうなほど喜んでいる。
 ただ、護衛をつけなければならない。裏の森には毒を持つ生き物がたくさん存在しているからだ。間違って毒のある植物を手にしないように、毒のある生き物に噛まれないように。そういった毒からクラリスを守るために護衛をつければ森を散策してもいいとのことである。
「ですが、わたくし。毒に関しては誰よりも詳しいという自負がございます」
 薬師であるクラリスのその言葉はあながち間違いではないだろう。しかし、ユージーンが護衛をつけると指示を出したのであれば、それを守る必要がある。ましてクラリスが一人でふらっと森に入り、迷ったとか怪我をしたとかとなれば、それこそ問題になりかねない。
「ですが、ユージーン様は必ず護衛をつけるようにとのことです。こちらを守ることができないのであれば、森の散策はあきらめてください」
 ネイサンが強く言うと、クラリスは護衛をつけて森へ入ることに渋々と納得したようだった。
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