わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 さて、ここで問題になるのが、誰をクラリスの護衛につけるか、である。
 今までは城内で、もしくは温室で過ごすことの多かったクラリスに、専属の護衛はつけていなかった。ユージーンが不在であるのも理由の一つ。妻であるクラリスに専属護衛をつけるかどうかは、ユージーンが決めるべきと思っていたからだ。その人選もまた然り。
 しかし今回は、森の散策のための護衛であり専属とは異なる。その人選はネイサンに託すと書かれてあった。
 魔獣討伐団の中で、既婚で子持ちの兵の中から選ぶことにした。だからといって、クラリスと護衛兵の二人きりになるようなことがあってはならない。
「奥様が森の散策ですか? 私が同行します」
 メイに尋ねると、すぐに色よい返事があった。さすがクラリスが連れてきただけの侍女である。クラリスに対する忠誠心が非常に高いのだ。
 そしてなんやかんや悩んだ挙げ句、護衛役は四十代のカロンという兵に頼むことにした。
「奥様の護衛だなんて、名誉なことではありますが……。裏の森の探索とは、なかなか気が重いですね」
 少しだけ目尻にしわを寄せて、カロンは苦笑いしていた。
 そのカロンの様子がおかしいと気がついたのは、彼をクラリスの護衛に命じてから五日経った頃。
「ネイサン様。さすがに毎日はしんどいです」
 そう弱音を吐いてきたのだ。
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