わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「失礼しました」
 謝罪の言葉を口にして、その場をやり過ごした。
 その日の夜、ユージーンの執務室で、主にかわって仕事をしていたネイサンのもとを訪れたのはクラリスだった。後ろにメイを従えているところは、ネイサンと二人きりにならないようにという配慮なのだろう。
「ネイサンは、わたくしのことをどこまで知っているのでしょう?」
「どこまで、というのは?」
 クラリスがなぜそのようなことを問うのか、ネイサンにはまったく心当たりがない。
「奥様が薬師である。それは奥様自身がおっしゃったことですよね」
「ええ、そうですね」
 クラリスはメイに目配せをし、二人で何かを示し合わせているように見えた。
「旦那様は、わたくしが表向きは薬師としてアルバート殿下にお仕えしていたことを、ご存知でしょうか?」
「さあ、そうでしょう? ユージーン様しか知らないこともあるかとは思いますが。ユージーン様がどこまで奥様のことをアルバート殿下からお聞きになったのか、僕にはわかりません」
 ユージーンが何を知って何を知らないのか。それをネイサンは知らない。
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