わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「旦那様が不在ですから、やはりネイサンにはきちんとお伝えしなければなりませんね」
 そう言って目を伏せるクラリスの顔に、陰りが差したように見えた。
 知っていなければならないが、聞いてはいけないような、そんな気持ちにすらなる。
「わたくし、表向きは薬師として王城におりましたが、毒師でもあるのです」
 毒師――
 聞き慣れない言葉ではあるが、まったく聞いたことがないわけではない。ありとあらゆる毒を熟知している術師。つまり、毒の専門家である。
「わたくし、毒師としてアルバート殿下の毒見役を務めておりました」
 ネイサンの胸のつかえが、ストンととれた。
 婚約披露パーティーでの愚行の数々の意味が、そこにあるような気がしたからだ。
「わたくしの母が、代々毒師の家系なのです。毒が効きにくい体質を利用して、王族の毒見役を務めておりました。その他にも、解毒剤なども調合しておりましたから、表向きは薬師として扱われているのです」
 むしろ、その表向きの肩書きも、クラリスに聞いて知ったのだ。
 それよりもクラリス・ベネノは毒女。この噂の影響力が大きいのだろう。それをネイサンが謝罪の言葉と共に口にすると、メイがピクリとこめかみをひくつかせた。今にも食ってかかりそうなメイを制したのはクラリスである。
< 97 / 234 >

この作品をシェア

pagetop