わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「もちろん、そのようなお話があることをわたくしも存じ上げております。ですが、殿下の側にいるためのよい隠れ蓑であると思って利用させていただきました。毒見役として側にいるのを知られてしまえば、相手に警戒されてしまいますので」
 クラリスの言うとおりだ。
「どうしても王城とは、敵の多いところですから。相手に気づかれぬよう、それとなく動く必要があるのです」
 それとなく行動していた結果が、クラリスを毒女に仕立て上げた。
「殿下が目立ってしまえば、より多くの敵を作ってしまいます。その敵意がわたくしに向けられるのは、何も問題はございませんから」
 臣下の鏡のような精神である。
「それから、先ほどネイサンに尋ねられた飲み物の件なのですが」
「奥様」
 そこでメイが止めに入った。
「大丈夫よ、メイ。ネイサンは信用に値する者だわ」
「ですが……」
「見知らぬ場所だからこそ、味方が必要なのです。あなたはわたくしの味方になってくれますよね、ネイサン?」
 ネイサンは自然と頷いていた。それだけの魅力が、クラリスにはあった。
 その後、クラリスから一通り話を聞いたネイサンは、この結婚を離婚前提としたユージーンを叱責したくなった。
 クラリスこそ、ユージーンにとって、そしてこのウォルター領にとって、理想の女性に間違いないのだ。
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