【書籍化】俺様魔王と生贄少女
場所は変わって、ここは魔界。
オランは人間界から戻ると、自室の豪華な椅子に腰掛けた。
椅子だけではない。ベッドも、部屋の内装全てが光輝く金属や宝石で装飾されていた。
部屋の中には、もう一人、青年がいた。
見た目年齢は19歳ほどで、淡いブルーグリーンの髪、黄色の瞳、まるで女性のような綺麗な顔立ちをしている。
彼は、クールで大人しい性格の魔獣・ディアだ。
魔獣とは言っても普段は人間の姿をしていて、魔王の側近・男性秘書の役割をしている。
「魔王サマ、今日はどちらへお出かけでしたか?」
静かなディアの口調には、微かな怒りが込められている。
「まぁ聞けよ、ディア。人間界で女と契約を結んだぜ」
「人間界…そうですか、人間界で仕事をサボっておられたのですね」
ディアが怒るのも無理はない。
オランが魔界の仕事をサボってどこかへ遊びに出掛けると、その仕事は全てディアに任される。
ディアの日々の苦労は半端なモノじゃないだろう。
だがオランは悪びれた様子もなく、むしろ堂々として偉そうだ。
「人間と契約を結ぶのも悪魔の仕事じゃねえか?」
「屁理屈ですね」
ディアは魔王に従順で、立場も年齢も下ではあるが、臆せずに言いたい事はハッキリ言う。
人間と契約を結ぶという事は、今後も人間界に行っては自由に動き回る、という意味なのだ。
魔王の遊びと逃走の場が、人間界にまで広がった。
数日後、オランはやはり、魔界を抜け出して人間界へと遊びに出掛けた。
契約者となった、あの女……アヤメの事も少々気になる。
以前と同じ森の中に降り立つと背中の羽根を消して、歩き始めた。
契約者であるアヤメの気配を辿って歩けば、すぐに彼女の住む村に辿り着く。
だが、すぐに……その必要はなくなった。
まるで初めて出会ったあの時のように、目の前にアヤメがいたのだ。
まるで、オランが来るのを待っていたかのように。
「魔王様……ここに来れば、会えると思ってました」
以前とは違って、アヤメはオランを怖がりはせず、微笑みかけてきた。だが、どこか悲しそうだ。
オランは瞬時に、アヤメの表情から違和感を感じ取った。
「何か言いたそうだな。言えよ。前にも言ったが、オレ様はあんたの願いを何でも叶えてやる」
だが、その次にアヤメの口から出されたのは、衝撃の一言だった。
「私……生贄になりました」
さすがのオランも予測出来ずに一瞬、言葉が出なかった。
「あぁ?なんだそりゃ?何の生贄だぁ?」
「魔王様の、です」
「?」
オランにはアヤメの言う事が理解できない。
その後のアヤメの説明をまとめると、こうだ。
『オランが以前、人間界に降り立った時に、他の村人にも姿を見られていた』
『コウモリの妖怪が村を狙っているという噂が広まる』
『妖怪の気を鎮める為に、生贄を捧げようという結論に至る』
「それで?なんで、あんたが生贄なんだ?」
「それは多分…身寄りが無いので、都合が良いのでしょう。そうなりますよね」
アヤメはすでに両親を亡くしていて、村の誰かを頼って生きるしかなかった。
「魔王様…私の願い事です。どうか叶えて下さい」
アヤメは涙を浮かべながら、意を決して、オランを見上げた。
「私は、魔王様の生贄です。魔王様のお好きな様にして下さい」
願い事のはずが、全ての権利はオランに委ねられている。
これでは、願い事としてカウントできないだろう。
だが、オランがその時に感じたのは、驚きでも困惑でも無かった。
「ククッ……いいんじゃねえ?それ」
これ以上に都合が良い事があるだろうか、と。
アヤメがオランの生贄として捧げられたその日。
オランは、アヤメを魔界へと連れ帰った。
『アヤメは、コウモリの妖怪の手に渡った』と、村人の誰もが思うだろう。
ここから、『人間の少女』が『魔王の妃』となるべく奮闘する日々が始まっていく。
オランは人間界から戻ると、自室の豪華な椅子に腰掛けた。
椅子だけではない。ベッドも、部屋の内装全てが光輝く金属や宝石で装飾されていた。
部屋の中には、もう一人、青年がいた。
見た目年齢は19歳ほどで、淡いブルーグリーンの髪、黄色の瞳、まるで女性のような綺麗な顔立ちをしている。
彼は、クールで大人しい性格の魔獣・ディアだ。
魔獣とは言っても普段は人間の姿をしていて、魔王の側近・男性秘書の役割をしている。
「魔王サマ、今日はどちらへお出かけでしたか?」
静かなディアの口調には、微かな怒りが込められている。
「まぁ聞けよ、ディア。人間界で女と契約を結んだぜ」
「人間界…そうですか、人間界で仕事をサボっておられたのですね」
ディアが怒るのも無理はない。
オランが魔界の仕事をサボってどこかへ遊びに出掛けると、その仕事は全てディアに任される。
ディアの日々の苦労は半端なモノじゃないだろう。
だがオランは悪びれた様子もなく、むしろ堂々として偉そうだ。
「人間と契約を結ぶのも悪魔の仕事じゃねえか?」
「屁理屈ですね」
ディアは魔王に従順で、立場も年齢も下ではあるが、臆せずに言いたい事はハッキリ言う。
人間と契約を結ぶという事は、今後も人間界に行っては自由に動き回る、という意味なのだ。
魔王の遊びと逃走の場が、人間界にまで広がった。
数日後、オランはやはり、魔界を抜け出して人間界へと遊びに出掛けた。
契約者となった、あの女……アヤメの事も少々気になる。
以前と同じ森の中に降り立つと背中の羽根を消して、歩き始めた。
契約者であるアヤメの気配を辿って歩けば、すぐに彼女の住む村に辿り着く。
だが、すぐに……その必要はなくなった。
まるで初めて出会ったあの時のように、目の前にアヤメがいたのだ。
まるで、オランが来るのを待っていたかのように。
「魔王様……ここに来れば、会えると思ってました」
以前とは違って、アヤメはオランを怖がりはせず、微笑みかけてきた。だが、どこか悲しそうだ。
オランは瞬時に、アヤメの表情から違和感を感じ取った。
「何か言いたそうだな。言えよ。前にも言ったが、オレ様はあんたの願いを何でも叶えてやる」
だが、その次にアヤメの口から出されたのは、衝撃の一言だった。
「私……生贄になりました」
さすがのオランも予測出来ずに一瞬、言葉が出なかった。
「あぁ?なんだそりゃ?何の生贄だぁ?」
「魔王様の、です」
「?」
オランにはアヤメの言う事が理解できない。
その後のアヤメの説明をまとめると、こうだ。
『オランが以前、人間界に降り立った時に、他の村人にも姿を見られていた』
『コウモリの妖怪が村を狙っているという噂が広まる』
『妖怪の気を鎮める為に、生贄を捧げようという結論に至る』
「それで?なんで、あんたが生贄なんだ?」
「それは多分…身寄りが無いので、都合が良いのでしょう。そうなりますよね」
アヤメはすでに両親を亡くしていて、村の誰かを頼って生きるしかなかった。
「魔王様…私の願い事です。どうか叶えて下さい」
アヤメは涙を浮かべながら、意を決して、オランを見上げた。
「私は、魔王様の生贄です。魔王様のお好きな様にして下さい」
願い事のはずが、全ての権利はオランに委ねられている。
これでは、願い事としてカウントできないだろう。
だが、オランがその時に感じたのは、驚きでも困惑でも無かった。
「ククッ……いいんじゃねえ?それ」
これ以上に都合が良い事があるだろうか、と。
アヤメがオランの生贄として捧げられたその日。
オランは、アヤメを魔界へと連れ帰った。
『アヤメは、コウモリの妖怪の手に渡った』と、村人の誰もが思うだろう。
ここから、『人間の少女』が『魔王の妃』となるべく奮闘する日々が始まっていく。